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コラム
第155話:“組織のあるべき姿”を見据えた人材育成プランが必要! 〜年頭コラム
 ユーザー企業・IT部門の弱体化が指摘されるようになって久しくなります。近年はシステムの構築・運用のみならず、企画までをも一括してITサービス企業にアウトソーシングするケースが増えており、一部の企業には、「このままではIT戦略を実現できる人材が育たなくなる」という危機感も芽生え始めてきました。また、世界的な景気後退の影響で人件費をはじめとするコスト削減のプレッシャーも高まっています。

 では、そうした状況の中で、優秀な人材を育てて強いIT部門を実現するために、CIOや責任者はどのようなアクションをとるべきでしょうか。

年初に当たり、IT部門のあるべき姿を見据えた人材育成を行うためには、どういった点に考慮すべきであるかを明らかにしたうえで、UISS/スキル標準の活用法を提示したいと思います。
高まるIT人材戦略の重要性
 ユーザー企業のIT部門には、企業経営を支える部門としての重要な役割が期待されています。
 近年は技術力だけではなく、ITを利用したビジネス・ソリューションの提供能力を期待されるようになり、ITの企画・構築・維持運用を担うと同時に、ビジネス価値の創出をも支援する部門と位置づけられるようになってきています。

 最近では、景気後退の影響もあって競争が激化し、有力企業の間で生き残りをかけた熾烈な戦いが繰り広げられている業種も多いといえます。
 また、M&Aや法規制の改定など、経営を取り巻く環境の変化も激しさを増しており、IT部門には、こうした変化に対応したITサービスを迅速に提供していくことも求められるようになっています。ここで重要となるのが、単なる変化への個別対応ではなく、質の向上とコストの最適化を前提として、PDCAサイクルを回し、常に安定したサービスをビジネス部門に提供できる組織へとIT部門を高めていこうという視点です。

 そうした状況の中で、筆者は最近、企業のCIOやIT部門長から、IT人材の育成に関する相談を受ける機会が増えました。これも、経営トップが掲げる戦略を支援するために優秀なIT人材を確保しておくことがいかに重要であるかということが、企業の間で強く認識されるようになってきたことの表れだでしょう。筆者が策定に深くかかわってきたITSSやUISSに対する企業の関心は確実に高まっています。IT人材戦略を練り直し、経営に貢献しうる組織になろうという動きは今後さらに活発化するはずです。
ユーザー企業のIT部門の課題
 先述したように、現在、企業の経営陣はIT部門を「戦略部門」ととらえ、大きな期待を寄せていますが、実態は必ずしもそうはなっていないようです。その原因としては、次のようなことが考えられます。

●ビジネス部門から見た場合、「IT部門は単なるインフラ管理部門」という認識にとどまっている
●アウトソーシングが定着し、ITサービス企業にかなりの部分を任せるようになったため、IT要員が減り、スキルの空洞化が起きている
●本来、IT部門がビジネス部門からの要求をまとめてITサービス企業に依頼するためのRFPの作成までもがITサービス企業任せになっており、提案された金額をそのまま予算化しているケースもある
●IT部門のスタッフに、情報システムが自社のビジネスと直結しているという意識がない
●希望してIT部門に配属されたのではないスタッフも多く、そうしたスタッフはキャリアパスを描きにくく、今の仕事を自分の将来に結びつけることができないでいる
●上に挙げたようなことが影響して、業務に対するモチベーションが上がらない

 今、多くのユーザー企業がこのような問題を抱えており、その中には、どうすれば経営戦略に合致したIT戦略を立案・遂行可能なIT部門を実現できるかについて、真剣な検討を始めているところも少なくありません。
 また、その一環として、ITスタッフのモチベーションをどのように高め、個々人のパフォーマンスを最大限に引き出していくかや、それを各人のキャリア設計にどう結びつけていくかということなども検討され始めています。
 加えて、上司と部下の共通理解を促すコミュニケーションをどう活性化させるかといったことも、重要なテーマとして検討の対象になっています。
IT部門の「コア人材」とは
 ビジネスへの貢献度が高いIT部門を目指すうえで欠かせないコア人材として、「イノベーター」「アーキテクト」「社内コンサルタント」の3種類の人材が考えられます。

 イノベーターとは、アンテナを張り巡らして世の動きをすばやくキャッチし、新技術/製品の中から自社にとって価値の高いものを選び出し、有用なアイデアを着想できるような人材を指します。

 アーキテクトと社内コンサルタントは、前節で触れた「変わらないスキル」を持つ人材です。アーキテクトは、ITとビジネスの両観点からインフラを俯瞰でき、統合的なアーキテクチャを構想できる人材であり、社内コンサルタントは、業務改革や課題解決を主導していく人材です。

 IT部門がビジネス部門の下請けに甘んじることなくリーダーシップを発揮していくためにも、責任者はこの3種類のコア人材をモデル化したうえで、社内での育成を図っていく必要があります。
IT人材の「コミュニケーション能力」向上と次世代リーダーの育成
 これからのIT人材に求められるコンピテンシーの1つに、高いコミュニケーション能力があります。もちろん、ITマネジメントのトップであるCIO自身のコミュニケーション能力も問われることになるわけですが、同時に、自社のITスタッフに高いコミュニケーション能力を習得させることが、IT部門の社内価値を向上させるうえで非常に有効な取り組みであることも、強く認識する必要があります。

 さらには、潜在能力の高い人材を初期段階で見抜く眼力も、ITスタッフにリーダーシップやマネジメントのスキルを習得させるうえで欠かすことができません。

 次世代のリーダーを育成するのは、育成プロジェクトに組織的に取り組み、それを実行に移すことが肝要です。単に出来合いのものを持ってきたような平凡な人材開発プログラムからは、平凡な人材しか生まれません。

 リーダーの素養のあるIT人材の条件としては、次のようなものが挙げられます。

●ビジネスのバックグラウンドを理解できる
●ビジネス・パートナーと良好な関係を築ける
●ビジョンを構築できる
●物事を進めるうえで必要な理論・方法論を持っている
●理論だけではなく高い実行能力を持っている
●適材適所を徹底し、遂行能力の高いチームを編成できる
●固定概念にとらわれない着想ができる
●困難に挑戦する気概を持っている
●自身の価値を理解し有効に使うことができる
●他人の価値を理解している

 これらの条件を満たすリーダー候補に関して、コミュニケーションやリーダーシップのスキルを、上司や同僚、部下などあらゆる関係者から評価してもらうような仕組みを整えることも、CIOや責任者の役目の1つです。

 次世代リーダーの育成は、企業の未来を支えることになる次世代のCIOをどう育て上げていくかという問題であり、現職のCIOにとっては重要な使命の1つだと言うことができます。
UISSの活用で得られるメリット
 これまで企業が推進してきた、自社IT部門のあるべき姿の定義や人材育成のアプローチは、すべて各社独自の取り組みでした。したがって、そのために必要なコストや時間も決して小さくありませんでした。
 また、仮に自社の“独自標準”を作り、IT人材育成やプロジェクトのアサインに利用することが可能な体制を整えたとしても、他部門からの理解を得られないまま、長続きせずに破綻してしまうケースも少なくありませんでした。

 つまり、IT部門における人材育成という取り組みは、これまで、膨大なコストをかけた割には、価値のある仕組みがほとんど何も残らないままに終わっていたのです。

 UISSは、そうした問題を解決するために生まれたものです。IT部門に必要なスキルを一定のレベルで規定・提供するためのものであり、CIOや責任者にとって大きな意義を持ちます。

 UISSを適切に活用することによって、独自の手法では避けられない非効率さが解消されるだけでなく、これまで実現するのが困難とされた、次のような戦略的アプローチを実現することも可能になるのです。

●組織力の強化:組織が持つべき機能・役割の可視化、および組織設計での活用。インソースとアウトソースの区分を明確にし、総合力を引き上げるための活用
●個人スキルの強化:業務機能を把握し、生産性/業務品質向上に貢献する人材育成のフレームワークとしての活用
●効果的な戦略投資の実施:投資の優先順位の明確化や、投資効果を把握するための活用。システム発注時のRFP策定やITベンダーからの提案を評価するための活用
●IT部門の実力(強み/弱み)の可視化:スキルの観点からの評価に基づく人材投資効果の最大化に向けた活用
●人員配置の最適化:スタッフの具体的な能力に基づいた人員配置を実現し、事業の効率化を図るための活用
●キャリアパスの明確化:個々人が目標とするキャリア実現のために必要なスキル開発項目の明確化や、キャリア変更を図る際の参照モデルとしての活用
●育成計画の立案:自社の目標と現状に即してスタッフのスキルや改善点を把握し、育成計画立案の指標とするための活用
●人材投資効果およびビジネス目標への貢献度の検証:仕組みの策定に加えて、PDCAサイクルに基づく継続的な運用・改善に向けた活用

 IT人材育成というテーマに取り組むにあたっては、「IT部門のあるべき姿(To Be)」を描くことが欠かせませんが、問題はその描き方です。
 そこでは、いきなり人材像をイメージして必要な「ITスキル」に着目するのではなく、まずは自社のIT部門に必要だと思われる「ファンクション(機能)」を構成してみるというアプローチが求められます。
 これは、自社のビジネスを支えるためにIT部門が持つべき組織機能を定義し、その機能を回していくために必要な要素として「スキル」を位置づけるという方法であり、UISSだけでなくITSSの活用アプローチにおいても採用されています。

 To Beをこのようにまとめておけば、「IT部門にどういったスキルが必要なのか」についての関係者のコンセンサスが得やすくなるし、組織機能の次の段階である「人材像」を考えたときに、その責任範囲を機能レベルで明確化することも可能になります。
 また、これは、アウトソーシングすべきではないコア機能とそうすべき非コア機能の区分や、情報システム子会社との役割分担の明確化といったような、業務の切り分けを考える際にも活用できます。

 このような、ファンクションを切り口としたTo Beの策定は、情報システムにかかわる方であれば、もともと得意とするところであるはずです。
 しかも、CIOや責任者がリーダーシップを執れば、直ちに実行に移すことができます。UISSは、それを支援する強力なツールとなるのです。

 CIOが長年にわたって悩まされ続けてきたIT人材育成にかかわる課題を解決するためのツールとして、UISSはきわめて有効です。
 しかしながら、こうしたフレームワークを導入しただけでは何も変わりません。CIOや責任者自らがUISSの価値を理解し、その活用に向けてリーダーシップを執ることが、確かな導入効果を得るうえでの必要十分条件となるのです。
登録:2010-01-05 18:13:04
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