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コラム
第20話:経営者・エンジニアの現状認識の甘さ、この危機的状況は90年代のオープン化の状況に似ている?!
経営者は海外勢の脅威をどう捉えているのでしょうか。また、企業で従事している各個人は、どうなのでしょうか。
現在の状況では、うまく現状認識できているとは言えません。1990年代初頭にオープンシステムへの大きな波が来ましたが、その時の感覚に良く似ていると感じています。
メインフレームからオープンシステムへ
1990年代初頭、ITの世界はメインフレームからオープンの世界に大きくシフトしました。それまでメインフレームの仕事を中心としてきたIT企業の経営者やエンジニアにとって大変大きなインパクトだったことは間違いありません。私もメインフレームの世界に居ましたが、これからはオープンだと考え、しかもずっと手がけてきたデータベースはその中心になると判断し、ちょうどその頃に日本オラクルに転職を果たしました。オープン化の波の真っ只中に居ただけではなく、自分自身も大きく変化させたわけです。
そんな中で、仕事の内外に関係なく色々な経営者や技術者と話しました。強く感じたのは、以下のようなことです。

・経営者は、オープン化の状況を一時的なものと考え、少し時間がたてば元の状況に戻ると思っている。
・エンジニア個人は、メインフレーム上で蓄積してきた自分のスキルが、オープンの世界では全く役に立たないと思い、自己防衛に入っている。

つまり、経営者はオープンの技術を持った技術者の育成に躊躇し、メインフレーム中心のエンジニア個人は、今まで築き上げてきたスキルが無になるのではないかという恐怖感で、無駄だと自覚しながらオープン化を阻止しようとしていたのです。一方でオープンの世界だけで育ってきたエンジニアが徐々に登場し始め、あちらこちらで新しい技術を使ったシステム構築が始まってきました。それを横目で見て経営者やエンジニアは、ますます戦々恐々とした状況に陥りました。
現在の危機的状況とは〜大手
ある5000名以上の社員を抱える大手SI企業の現実のお話しです。人材開発の責任者の方が私のところに来られて、「自社の中堅・ベテランエンジニアが、基本設計をこなすことができない」と言われるのです。まさかと思いましたが、私が93年頃松下電器産業様の依頼を受けて作成した「システム分析」のコースを実施することになりました。このコースは、松下電器産業様の研修センター(大阪府枚方市)で、グループ企業を含めて20回以上実施しました。それ以降も日本HP、日本オラクルなどで実施している実績あるコースです。内容は、よくある理論だけの内容では無く、システム構築の上流工程で、実際に私がコンサルして来た内容をベースにしている実践的なものです。
15名のリーダー、PMクラスの方を集めていただき、その3日間のコースを実施いたしました。毎回最初に受講者の皆さんに色々と質問をしていきます。「Enterprise Architectureを知っていますか」、「データ分析のモデリングの時に、ERモデルを使いますか」、「要求分析、機能分析のモデリングには、何を使いますか」、「Data Flow Diagramを書いたことがありますか」、これらの殆どの答えが「No」でした。ではどうやって基本設計をしているのでしょう。また、基本設計は「画面と帳票を作ることです」と言われた方もおられました。責任者の方が言われた通りです。前半レクチャーで後半ワークショップの3日間のコースをどうやって進めようかと、一瞬目の前が真っ暗になりました。ところが、さすがに油の乗った方たち、日本人は頭がいいと思いました。皆さん3日間で見事にキャッチアップされたのです。「感動しました」といって帰られた方もおられました。つまり、しっかりと体系や手順をトレーニングしてもらっていないのです。方法論を知らないと現場では大変です。知っていれば簡単にできることが、自分で試行錯誤しなければいけないので、2倍3倍の時間がかかってしまいます。また、訓練されていない方々がリーダーやPMになって、部下の方を育成していくわけですから、さらにおかしなことが増幅していきます。その企業で持たれているトレーニングのメニューを見せていただきましたが、年間数千万円も使われていて、それだけ見るととても立派です。ところが、「ロジカルシンキング」のコースがありますが、それだけ単独で教えても余り意味が無いのです。要求分析フェーズで、ユーザーの要求をモデリングする時に、ロジックツリーやWHYツリーを使うわけで、その場面で実践的な方法を教えないとうまくつながりません。システム構築が仕事なのですから、それを目的としてその中の流れの中で、手法のトレーニングをする必要があります。すべてそのような感じで、効率的になっておらず、エンジニアにとってもっと有益なものにすることが可能だと思われ、大変もったいない気がします。
この例は、人材育成の責任者の方が良く自覚されているので、今後は改善されていくと思いますが、これは珍しい例だと思います。殆どの企業が何も気づかず今まで通り進めておられます。
この内容が現在の危機的な状況、スキルレベルが余りにも低い、ということを如実に表していると思います。
現在の危機的状況とは〜中小
北海道から沖縄まで、地方にも講演などで出かけます。そして当然色々な経営者の方とお話しさせていただきますが、よくお聞きしますのは、「ITスキル標準に取り組めば、どのくらい儲かるのか」ということ、また「人材育成にかけるお金も暇も無い」というお話しもよくあります。中小の経営者の方々は、お年をめされておられる方も多く、今までも散々苦労されてきて、あとはできればすんなり?行きたいと考えておられるのが、良く分かります。何が悪いというよりも、これでは海外の脅威に対して簡単に飲み込まれてしまうという状況が、容易に想像できます。「考えたくない」ということと「考えられない」というのは、根本的に異なりますが、結果として危機感が無いというのが現実です。そしてその中にいるエンジニアの多くは、よほどでない限り辞めさせられることはないので、リスクが殆ど無く漫然と仕事をこなしているという状態です。ですから危機感は殆ど無いということです。自分が海外のエンジニアに置き換えられかもしれないのに、です。
気づき
話を少し戻して、メインフレームの中で育ってきたエンジニアは、システム構築の手法や、テスト計画、障害手順などについて、現場で厳しく鍛えられてきました。オープン系のエンジニアは当初最新技術は持っていますが、その辺りの基本的な知識やスキルを持ちません。当然です、トレーニングされたことも経験も無いのですから。当初は基幹ではなくて、付属的なシステムをオープンシステムに置き換えていきました。構築手法は、スクラップ・アンド・ビルドです。このような会社経営にさほど影響を与えないようなシステムの場合は良かったのですが、基幹システムに範囲が広がってきた時に、やはりメインフレームで厳しく鍛えられた方々のスキルが必要だと、皆が気づきました。私は、当初オープンに拒否感を持っておられた方々に、この話しを続けてきました。そして、本当にその方たちがそれを実感された時に、基幹システムがオープン化に大きく踏み込むことができたと思っています。
しかし、その方たちも管理職になられ、現場からは遠くなられて、多くに方々も、退職される時期が迫ってきています。実践的な内容を伝授することができる数少ない方々さえも、去っていくことになるのです。
危機感を持って自らの強みを伸ばしていく
先のオープン化の波の場合は、ビジネス的にも概ね国内の問題であり、遅れをとっても頑張って取り戻すことはできました。ところが、今回の海外の脅威の場合は、遅れをとれば仕事を持っていかれるのです。
今、企業にとって、エンジニア個人にとってどういう状況なのか、何をしなければいけないかを、真剣に考えて早く実行しないと本当に大変なことになります。
中国の次はインドです。インドの次はベトナムです。彼らは単価が安いだけではなく、勤勉で優秀です。IT関係の仕事に就くということは、エリートだと自負しています。英語も普通に話せます。その上、日本語学校も大流行で、ターゲットは日本だということが明確です。そして、日本には8000社のIT企業と、57万人のエンジニアがいると言われています。それがこの状況でそのまま継続していくと思われますか?
大きな企業、中小、首都圏、地方、そんなものは関係ありません。経営者の方が、目標を持ってビジネスを捉え、いかに人材を育成していくか、これは企業の責任です。また、個人も自分のキャリアデザインを真剣に考えて自ら切磋琢磨する、ということに正面から取り組むべきです。待っていても誰も与えてはくれません。
登録:2011-01-30 15:35:46
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