スキルスタンダード研究所は、各業界へのスキル標準の活用・推進、プロフェッショナル人材育成に向けたコンサルティングサービスを提供します。
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コラム
第39話:「ITスキル標準」活用における真実
 「ITスキル標準」導入を考える責任者の皆さんは、本当に良く分っているのでしょうか。どういう状況で、どうなりたいからという目的を持って、確実な方法で導入するという考えが必要です。手段が目的になっていませんか?現場のエンジニアのモチベーションを上げてパフォーマンスを最大限に持っていくか、そうならないかは導入責任者やそれを進める経営層の考えにかかっています。責任重大です。
現場での苦悩
 私は日本オラクルに11年勤務していましたが、マネジメントとして一番気にしていたのは「後進の育成」でした。私は人事や人材開発ではなく、ずっとエンジニアとして現場を歩いてきました。システム分析のコンサルティング、サポートサービスやエデュケーションサービスの責任者、システム・エンジニアの統括などですが、現場として一番気になっていたのが若手の育成で、常に頭を悩ませていました。若手は、入社して2、3年経って社内の一通りが分かると、やることが無くなったように感じたり、ここにいてはスキルアップできないのではないかと思うようになり、飛び出したくなってくるのです。私自身は何度か転職していますので、転職が悪いとは思いませんが、必ずステップアップすべきだと考えています。よく相談に乗りましたが、いつも引っかかったのは、私自身がどうなりたいか良く分かっていなかったことです。振り返ってみると、会社から与えられた仕事だけをこなしてきました。やりたくない仕事もありましたが、仕方ないと思ってあきらめたこともしばしばでした。しかし、実際にやってみると面白く達成感があったのも確かです。しかし、自分のやりたいことは何か、どうなりたいかは、自分の中ではっきりしていたわけではありません。なのに若手から相談されて、自信を持って話せる訳は無いと思っていたのです。何とかしたいという思いで、キャリアパスやスキルセットを明らかにするため、何度かタスクチームを編成して、その仕組み作りにチャレンジしました。頑張って他部署の大勢を巻き込んで進めるのですが、絵に描いただけで、仕事が忙しくなって終ってしまったり、せっかく実行に移そうとしても経営陣が、「それは高橋が作ったものだろう。誰が担保するのか。」や、「後は誰が維持管理するのか」といったネガティブな話しを打ち破ることができず終ってしまいました。そうして自分の中ではかなり長い間ストレスがあったわけです。
一筋の光明「ITスキル標準」
 挫折感を何度も味わって、どうしていいか分らないと考えていた時、経済産業省から「ITスキル標準」がリリースされたのは2002年12月でした。今まで会社の中で、どうしても打破できなかった基盤の部分が提供されたわけです。早速社長に人材育成の重要性と、そのベースとなる「ITスキル標準」の導入について説得しました。日本オラクルも成長期のような右肩上がりの業績を達成できなくなっており、しかも新卒入社のメンバが全体の3分の2近くを占めるようになっており、いかに人材育成が重要かを再認識するところに来ていましたので、私の提案は割合すんなりと受け入れられることになりました。
導入に当たっての具体的な考え方
 その結果、エンジニアの育成を担当することになり、仕組み作りに取り掛かりました。今までの経験上、社員を相手に難しい理解を強いるのは無理で、目的を明確にしてこうすればこうなるという仕組みで提供するのが一番です。世の中にスキル管理システムは沢山あります。自社で独自に開発されたもの、ERPのHRの部分にスキルズインベントリが用意されているものもあります。日本オラクルのERPも検討しましたが、スキル管理に使うには余りにもERPは図体が大きすぎます。次に「ITスキル標準」対応といわれている診断ツールを調査してみました。その結果、全てがまず初めに職種と専門分野の特定を要求してきます。個人ならともかく、それだけで企業の人材育成では効果が期待できないと判断できます。職種専門分野などある限られた部分のスキルだけを対象としても、全体の強み弱みを可視化することはできません。「ITスキル標準」の11職種38専門分野に、会社ごと合わせようとするなら話は別ですが、ビジネスモデルや戦略の違いが、標準の中で表現できるはずがありません。どこを切っても金太郎飴のような企業を作るために「ITスキル標準」ができたわけではありません。また、「ITスキル標準」のスキルフレームワークで見ても、何処に投資すればビジネス目標達成に効果的なのか分らず、投資対象が特定できず、投資効果の評価もできません。仮定した職種上の比較対照だけでは、本来のスキルの棚卸しにはならず、現実的な強み弱みが可視化できません。他企業との比較で企業価値を見るには使えますが、これは手段の一つであって目的ではありません。これらの話は、聞けばよく理解されるのですが、独自で導入を進めておられる方々は、ほとんど気づかないのが私にはよく理解できません。
人事制度への適用は気をつけて!
人事制度は企業の戦略であり、それを「ITスキル標準」に合わせるという考え方は理解できません。人事制度は、競争に勝ち抜く大きな戦略の一つです。また、経営戦略も会社によって異なるのは当然です。それぞれ企業のビジネスモデルも事業プランも異なります。人材育成もその戦略に合わせてプランするのが当然です。事業を進める上で、必要な人材像を明確にしなければ、育成プランなどたてれるはずがありません。企業のビジネス上、必要な人材を育成するために投資するのです。それが明確になっていなければ、何にどれだけ投資していいか分かりません。従って企業内での人材育成を考える上では、「ITスキル標準」のフレームワークを、そのままの形で使っても効果が薄いことになります。「ITスキル標準」の11職種38専門分野、7レベルで表現されているスキルフレームワークが、人事等級制度に似ている事から誤解されている方々も多いようです。
「ITスキル標準」は、ビジネス目標を達成するために必要な人材を育成するための仕組みですが、それを正しく理解されていません。
効果的な活用
 しかし、会社を離れた個人が、ITエリアでの自分のバリューを知ることはとても大切です。そしてその中で自分のゴールを明らかにできるなら、素晴らしいと思います。これができなかったので、冒頭の「自分は何になりたいのか分からない、今何をすればいいか分からない」ということになっていたわけです。この場面では、「ITスキル標準」のフレームワークを使えます。エンジニアのスキルを可視化していくには、職種専門分野などある限られた部分のスキルを対象としても、余り効果は見込めません。自分の持っているスキルを全て表現できなければ、個人にとってもプラスではないでしょう。何ができて何ができないかは、個人個人の経歴によってかなり違ってきます。初めから枠を設けることは適切ではありません。
 また、企業間での「調達」においても、そのまま使うと効果的です。ただし、調達の局面になると、詳細な個別スキルや、業界、業務スキルが必要となってくる場合があります。また、目標人材モデルにおいても、企業のビジネスモデル上詳細なスキル、たとえばプラットフォームではなくてUNIXやLinuxが必要になる場合があります。ITSSユーザー協会では「ITスキル標準」のベースになっている「スキル領域」をさらに詳細定義にブレークダウンして、昨年1年間実証実験を行ってきました。辞書的な位置づけとするなら、色々な視点で使う方々がいるかぎり、これは必要でこれは必要ないとは言えません。
 「スキル領域」を使用したスキル管理を実施することで、同じスキル領域のスキルデータを、「企業独自のビュー」と「ITスキル標準のビュー」の2つの観点で可視化でき、企業及び個人にとって人材育成上大きな効果が期待できます。
 ビジネス目標を達成するために必要な人材を育成するためには、ビジネスモデルに基づいた企業独自のフレームワークを作成することが必要があり、目標人材像を明確にした上で、現状とのギャップから育成プランを策定する事になります。こうすればどこが強みで、どこが弱みかが見えてきます。これで、事業プランからどこにどれだけ投資すべきかが明確になるわけです。個人からすると「ITスキル標準」のフレームワークを使って、自分が会社ではなくITエリアの中でどのくらいバリューがあるか、強みと弱みが可視化されます。これらを認識しておけば会社での仕事も、自分のためにどう役立つかが明らかになります。
 また、人材育成は継続が必要です。一時的に力をかけて、その後尻すぼみでは元の木阿弥です。継続運用していくために必要な人材を育成していく事も、見落とされがちですが大切な事です。
登録:2011-01-30 15:40:43
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