「ITスキル標準」は、何故理解しにくいか、何故活用しにくいかについて、コラムの中でも何度か述べてきました。それでも本格導入されている企業は、何とか最大限生かそうと努力されています。提供し易さや管理し易さの面ではなく、活用側の視点に立てば、何をどのように用意すればいいかが見えてきます。
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理解のしにくさ、活用しにくさについての再認識 |
理解しにくい、活用しにくいいというのは、「ITスキル標準」の定評となっています。何故なのでしょうか。再度共通認識するために簡単にまとめてみます。
@定義されている職種専門分野と、実際に仕事をしている職種の範囲や定義が異なる。 →標準化されたものだから各企業のビジネスモデルとは合わない。
Aカスタマイズしていいと言っていたが、何をどうすればいいのか不明。 →標準なので、変更すると企業間調達や、IT業界での位置づけの確認などに使えない。導入目的や活用の用途 を明確にする必要がある。
B「スキル熟達度」、「達成度」が分かりにくい。スキル定義自体も両者で重複している。 →「スキル熟達度」は、今まで各企業でスキルDBなどを作成して管理していたもの。「〜ができる」という表現に なる。一方、「達成度」は過去の経験を、責任性・複雑性・サイズ・タスク特性の4つの視点で定義したもの。 従来の経歴書で表現されていたものになる。
Cスキル定義(スキル領域)を印刷すると800ページにもなる。中身も重複感が大きく、意味も分かりにくい。多すぎて見る気がしない。 →職種専門分野単位で定義されているため、同じスキル定義が何度も登場するので量が増えている。 これは職種専門分野単位で見るものであり、全体を俯瞰するものではない。
D何をどう使えばいいか、それによって得られるメリットが見え難い。また、経営戦略から入らなければいけない、という話をよく聞くが、意味が分からない。 →活用方法などのガイドラインが提供されていないため、導入方法、活用方法は使う側に委ねられている。 |
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それぞれの問題についての考え方 |
上記のそれぞれについてもう少し詳しく考え方を突っ込んでみます。
@定義されている職種専門分野と、実際に仕事をしている職種の範囲や定義が異なる。 Aカスタマイズしていいと言っていたが、何をどうすればいいのか不明。
これらについては、考え方を以下のように整理できます。 <活用目的の分類> ・企業内 企業のビジネス・モデルや戦略はそれぞれ異なるために、共通フレームワークであり、辞書的位置づけである「ITスキル標準」をそのままの形で使っても効果は期待できません。企業が独自に1から考えるのではなく、「ITスキル標準」を利用することによってスキルベースの「目標人材モデル」の策定がし易くなります。 ・企業間 主に「調達」や企業価値の比較で使われることが想定されます。この場合は「何ができるか」が中心になるため、「ITスキル標準」を共通フレームワークとしてそのまま使用することが効果的です。 ・個人 属している企業とは関係なく、ITサービスのエリアで現在の自分にどのような価値があるのか、何処に位置づいているかを、「ITスキル標準」のフレームワークの中で考えることは大きな意味があります。また、さらに強みを伸ばしたり、将来のゴールを設定し自らのキャリアをデザインすることが、モチベーションアップにもつながります。企業で仕事をする上でも、自分の価値、キャリアパス、ゴールを認識することで、その仕事の中に自分の将来にとってどのような価値があるかを見出すことも可能です。 |
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「目標人材モデル」 |
上記に「目標人材モデル」という言葉が出てきますが、これは企業がビジネス目標を達成するために目標とする人材をスキルベースで定義したものです。 自社ビジネス・モデルを標準に合わせても仕方が無いので、独自のフレームワークを作ることになります。これは「カスタマイズ」とは呼びません。あくまで自社独自のフレームワークなのです。これこそが、3年後にどのようになっていたいかを表現できるフレームワークであり、「目標人材モデル」を表現するものです。同じプロジェクト・マネージャーでも、企業によって守備範囲、責任範囲が異なります。それを無理に標準に合わせることはありません。そんなことをすると、逆に競争力を削がれることにもなりかねません。どの会社も同じになってしまう世界を作るために、「ITスキル標準」ができたわけではありません。 独自フレームワークに「ITスキル標準」フレームワークと同じようにレベルを持たせることで、目標と現在が明確に認識でき、そのギャップから効果的な育成プランを策定することができるのです。 「ITスキル標準」フレームワークは、カスタマイズしてはいけない、してもいい、このような議論は不毛です。何のために「ITスキル標準」を活用するのでしょうか。また、他社と比較して自社の価値を知ることも重要ですが、それは手段です。目的は「ITスキル標準」を活用して、ビジネス目標達成に貢献するプロを育成するためなのです。使うことや比較することが目的ではありません。 また、「目標人材モデル」を表す独自フレームワークは、カスタマイズしているわけではなく、新たに作り出すものです。「ITスキル標準」フレームワークは、そのままの形で利用します。両方とも技術者のスキル管理データを映して見るだけのビュー的位置付けで、各々用途が異なります。 |
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定義内容について |
B「スキル熟達度」、「達成度」が分かりにくい。スキル定義自体も両者で重複している。
各企業で推進してきたスキル管理は、「スキル熟達度」の管理に当たります。たとえば「データベースの物理デザインができるか」などといった表現のもので、ほとんどの方になじみの深いものです。それに対して「達成度」は経歴書で表現してきた内容で、各企業でばらばらに表現してきたものを、標準化されたものだと考えて下さい。ほかに無い画期的な指標になりますが、まだまだ中身を精査して行く必要があります。
Cスキル定義(スキル領域)を印刷すると800ページにもなる。中身も重複感が大きく、意味も分かりにくい。多すぎて見る気がしない。
先にも書きましたように、職種専門分野単位で定義されているため、同じスキル定義が何度も登場するので量が増えています。これは職種専門分野単位で見るものであり、全体を俯瞰するものではありません。ただ、いろいろな視点で見たり、活用方法も異なるのに、これ1種類しか内容を定義したものが無いので様々な使い難さが表面化しているのが実際です。 |
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IT戦略への活用 |
次にDについての考え方です。
D何をどう使えばいいか、それによって得られるメリットが見え難い。また、経営戦略から入らなければいけない、という話をよく聞くが、意味が分からない。
3年後にどういうビジネス・モデルを目指すか、また今から3年間でそのために何をしていけばいいか、ということを具体的に考える場合、その3年後の姿を、売り上げやマージンなどの数字で表すことも必要です。また、それらを実現するために、どのくらいのスキルを持った技術者がどのような割合で必要かということを「目標人材モデル」として定義し、現在の状況を把握した上で、その目標の姿とのギャップより、育成プラン・採用プランなどを検討することがさらに重要になります。
次回第43話では、「ITスキル標準」が今後どのような提供内容・構造になればいいかを、活用側の目から明らかにしていきます。 |
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登録:2011-01-30 15:41:42
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