スキルスタンダード研究所は、各業界へのスキル標準の活用・推進、プロフェッショナル人材育成に向けたコンサルティングサービスを提供します。
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コラム
第47話:「ITスキル標準」企業活用状況 〜インタビューによる調査 その2
 「ITスキル標準」についての情報が少ない中、その活用に対する機運が高まっています。活用方法論が不明確なまま試行錯誤されている企業が多く、うまく理解できないまま社内だけで進められたり、畑違い・理解不十分なコンサルを使われたりで、遠回りしている感が拭えません。
「ITスキル標準」導入の目的
 昨年末ITSSユーザー協会主催のカンファレンスがありましたが、その中での私の講演を聞かれた方は、気付かれたかもしれません。何の目的で「ITスキル標準」を活用するのかという基本的な部分が明確になっていないと、うまく行かないということです。この部分を手法に沿って具体的に落として行かないと、目的/手段が明確になりません。ということは、人材育成に対する投資効果も明確にならないということになります。
 危機感を持って何とかしなければならないと考えていれば、私の話にピンときたはずです。何度も書いていますが、目的を大きく分けると以下の3点です。

−ビジネス目標達成に貢献するエンジニアの育成
−企業間調達
−エンジニア個人のスキルアップ支援

 経営層の方や導入を推進する責任者の方には、「経営者向け概説書」が用意できていますが、実際に導入を進められる担当者が必要なのは、さらに詳しい導入プロセスや事例集です。現在私の方で進めている「活用状況の調査」、及び「導入ガイド」作成の作業はこれらをターゲットにしています。「活用状況の調査」は、約60社の企業にご賛同いただいており、直接お伺いして責任者、及び推進者の方とお話をして導入推進における有効な情報としてまとめて行きます。
インタビュー内容
 インタビュー対象企業のステータスとしては、以下を設定しています。

 「導入検討中/導入実施中/導入済み(部分・全社)/導入断念」

 また、アンケートではないので場合によっては全て網羅できませんが、会話の中でお聞きする内容として以下の項目を設定しました。

1.導入の目的
 人材育成、人材調達、システム調達、人事制度、ジョブローテーション、個人のスキルアップを支援、その他
2.導入の範囲、理由
 ITサービス提供企業:全社、事業部、その他
 ユーザ企業:全社、IT部門、その他
3.時期、期間、理由
 期単位、予算の関係、その他
4.導入費用
5.関与者(段階別)
 @導入検討段階
 内部:経営層、推進部署、担当者、現場
 外部:コンサルタント(HR、SIer)、教育ベンダ、診断ツールベンダ、その他
 <起案者>
 <推進者>
A導入実施段階
 内部:経営層、推進部署、担当者、現場
 外部:コンサルタント(HR、SIer)、教育ベンダ、診断ツールベンダ、その他
 <推進者>
B運用・改善段階
 内部:経営層、推進部署、担当者、現場
 外部:コンサルタント(HR、SIer)、教育ベンダ、診断ツールベンダ、その他
 <推進者>
6.経営戦略、人材戦略の具体化
 <策定プロセス、方法>
 -要求分析(要求モデリング)
 -機能分析(ファンクションモデリング)
 -スキルセット策定
  不足しているもの(業界、業務、ヒューマンスキル、コンピテンシー、要素技術など)の対処
 -その他
 <成果物>
 -人材像(目標人材モデル)
 -人事評価制度
 -要求モデル
 -機能モデル
 -育成プラン
 -運用プラン
 -その他
7.運用モデルデザイン
 運用責任部署、担当者の育成方法・権限、その他
8.評価モデルデザイン
 責任部署、具体的評価プロセス、人事制度との関わり、その他
9.育成プラン策定
 責任部署、実施部署、予算、その他
10.レビュー方法
 経営層、推進部署、現場責任者、現場エンジニア、その他
 <導入検討段階>
 <導入実施段階>
 <運用・評価・改善段階>
11.(期待される)効果
 経営戦略、事業戦略、人材戦略、組織運営上、適材適所・ローテーションの適正化、評価の公正化、
 エンジニアのモチベーションアップ、その他
12.導入を躊躇している、もしくは断念した場合、その理由
 「ITスキル標準」の継続性・信頼性についての不安
 内容の不一致(フレームワークが合わない、スキル定義などに不足感、など)
 タイミングの問題(コスト、時期、など)
 経営層の理解不足、担当者の理解不足、現場の反対、人事部門の反対など
13.その他特記事項
インタビュー状況
 現在約60社の企業に賛同いただき、12月半ばから現在までで37企業のインタビューを終えています。内容としては導入検討中、及び作業中の企業がほとんどで、導入を終えて運用中の企業はごく一部です。導入済みかどうかも推進者の理解度で現状と一致していない場合も目に付きます。先回46話でもその状況の概略を書きましたが、推進側の「ITスキル標準」に対する理解不足が気になります。たとえば導入作業中の企業の推進者の方へのインタビューでの次のような会話があります。

Q:「ITSSの導入を進めようと一番初めに声を出されたのはどなたですか?」
A:「情報はこちらからインプットしていますが、最終的には社長の決断です。」
Q:「導入を進められている現在、一番問題だと思われることは何でしょうか?」
A:「推進している我々の理解度の低さです。」
Q:「どのような方法で勉強されているのでしょうか?」
A:「国側の分かり難い大量の資料しかないので、無料のセミナーなどに申し込み、自分で勉強するしかありません。」
Q:「どのようなセミナーですか?」
A:「診断ツールの説明会のようなものです。」
Q:「ITSSの理解につながりましたか?」
A:「当初、教えてもらうとおりでいいと思い、勧めにしたがって診断を実施しましたが、どうも自社の形態に合わないので、そのままになっています。」
Q:「次のアクションは、どのようにお考えでしょうか?」
A:「どのようにしていいか分からないのが実情です。」
Q:「では、コンサルなど外部の支援を受けるというお考えは無いのですか?」
A:「間接部門なので予算的に厳しいのです。診断で費用を使ってしまっていて、結果を明確にしないと申請しても却下されます。」
正しい「ITスキル標準」導入推進には何が必要か。
 これでは、うまく行きそうには思えません。
経営者が導入を決めたのに、推進者にそのために動きやすい環境を与えていません。経営トップが決断したと言っても、多分「ITスキル標準」についてほとんど理解されていないのでしょう。企業の繁栄のために必要な人材を育成するということは、経営者にとって最も大きなミッションと言っても過言ではないはずです。
 また、推進する側も自分たちは間接部門で、良いと思っても予算を取って進めることは難しいと、頭から思っているように感じます。これでは両すくみで、いいものができる流れにはなりにくいと思います。以前から書いているIT業界特有の「人の育成を考えない」ことの現れでしょうか。
 やはり、経営者の方が自分自身でしっかりと理解し、推進者が動きやすい状況を作るということが、まず重要なことです。2点目は、推進者の方の熱意と使命感の強さです。言われたからやるような人材に任せてはダメです。ビジネス上痛いですが、優秀で前向きな人材に導入する一定期間責任を持ってもらうことが必要です。結局これも、経営者の方のトップダウンでのリーダーシップだということになります。

次回以降もさらにインタビューした内容を掘り下げて行きます。
登録:2011-01-30 15:42:36
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