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コラム
第55話:公表間近、ITSS V2について
 2002年12月に公表されて以来3年半近くが経過し、ITSSは初めてのメジャー・バージョンアップを迎えます。その名も「ITSS バージョン2.0」この4月1日にリリースされる予定です。今回はその概要をまとめました。
バージョンアップにいたる経緯について
 昨年前半はIPA主催で「ITプロフェッショナル育成協議会」が開催され、約20名ほどの委員と経済産業省・IPAのオブザーバで、現バージョンであるITSSバージョン1.1について議論し、方向性や活動方針を定めました。私も委員として参画していましたが、今回のバージョン2.0のリリース計画や先に発行された「経営者向け概説書」などもこの場で決まりました。それを受けて昨年後半から先週までやはりIPA主催で「ITスキル標準改訂委員会」が開催されました。前回と違って今回はそれぞれのプロフェッショナルコミュニティの代表者や、ITSSをよく理解している委員で構成されました。もちろん、私も委員として引き続き参画させていただきました。
 私は、ほぼバージョンアップされずに3年以上経って、ITSSに関してやや停滞状況に陥っており、ここでいいものを出せないと興味を持っている企業や個人が離れて行ってしまうのではないかという危機感を持っていました。ITSSの企業導入を経験した方は委員の中におらず、ともすれば提供側の話に偏ってしまう危険があると思い、どうすれば活用サイドの立場に立ったものができるか、という1点のみに集中して意見を出してきました。
ITSSバージョン2の基本思想
 昨年12月にITSSユーザー協会のカンファレンスで、IPA・ITスキル標準センターの小川センター長に講演していただきましたが、その骨子をまとめてみます。

ITSSは 
・浸透できていない
・正しく活用されていない

なぜなら
・読みにくい
・使いづらい
・理解しにくい

その理由は
・読み取り、解釈法の説明が不足
・フレームワークに課題がある
・「達成度指標」、「スキル熟達度」が理解し難い

これらをもとに以下の検討体制が組まれました。

<ITスキル標準改訂委員会>
 機能
  ドラフティング・グループのアウトプットをレビューし、公開資料として承認する。
 メンバー
  JISA
  JUAS
  プロフェッショナルコミュニティ
  ITSSユーザー協会
  学識経験者
  経済産業省(オブザーバー)
 レビュー内容
  ユーザー要件の満足度、公開資料としての適切さ

<ドラフティング・グループ>
 機能
  事務局(IPA)作成の資料のドラフトを査読し、構造・内容をレビューし、V2の品質向上に貢献する。(ワーキング・グループ)
 メンバー
  プロフェッショナルコミュニティ
   ITA/PM/APS/ITS/CONS/OPNS
  経済産業省(オブザーバー)
 レビュー内容
  職種間のクロスチェック、分かり易さ、品質・標準化レビュー

<検討のポイント>
・ITSSの概要編検討
・ITSS標準本体の共通課題、職種間横断の検討
・ITSS本体の個別課題、職種毎の検討
職種・専門分野の改訂
<ITアーキテクト>
 アプリケーション、データサービス、ネットワーク、セキュリティ、システムマネジメントの5専門分野から、アーキテクチャ設計の視点(設計要素)で以下の3専門分野に分類し改訂。

・アプリケーション・アーキテクチャ
 利用者視点による業務上の価値を実現するためのITアーキテクチャを設計する。
 (主な設計要素)業務機能、データ、利用者操作性など

・インテグレーション・アーキテクチャ
 企業内および企業間における統合化された情報システムの企画・開発・運用を実現するためのITアーキテクチャを設計する。
 (主な設計要素)フレームワーク、インターオペラビリティ

・インフラストラクチャ・アーキテクチャ
 情報システムを実現する技術要素・基盤環境とそれらの管理を実現するためのITアーキテクチャを設計する。
 (主な設計要素)セキュリティ、プラットフォーム、システムマネジメントなど

<プロジェクトマネジメント>
システム開発/アプリケーション開発/ システムインテグレーション、アウトソーシング ネットワークサービス、eビジネスソリューション、ソフトウェア開発の4専門分野を統廃合/名称改変し、以下の4専門分野に改定。

・システム開発
 名称の変更と「インターネットテクノロジを使用したものを含む」ことの記述追加。
・ITアウトソーシング。
 名称の変更と「顧客の経営戦略を受けて外部組織として」実施することの記述追加
・ソフトウェア製品開発
 名称の変更と「不特定多数のユーザを対象としたソフトウェア製品」の記述追加。
達成度指標、スキル熟達度の改訂
 旧バージョンでは、達成度指標は以下の4つに分かれていました。

・責任性
 顧客に対する責任の重さを表す要素。対応すべき立場の責任性をレベル毎に設定。
・複雑性
 プロジェクトの難易度を表す要素。新規性、ミッションクリティカル性、国際性等の難易度をレベル毎に設定。
・サイズ
 プロジェクトの規模を表す要素。プロジェクト規模、あるいはビジネス規模をレベル毎に明示。
・タスク特性
 専門技術の向上や普及に代表される専門価値の創造と技術の継承、後進育成に関する貢献活動を評価。

 それをバージョン2では、「ビジネス貢献」と「プロフェッショナル貢献」の2つに分け、前者には責任性・複雑性・サイズが入り、責任性の下に複雑性とサイズが位置付きます。これは責任分野と役割を明確にした上で、ビジネスへの直接成果を明らかにするためです。後者はタスク特性の名称を変更した形になり、専門分野でのリーダーシップ、人材の育成に焦点を当てています。
 また旧バージョンでは達成度指標として文章で羅列してあるイメージですが、新バージョンでは短く的確な表現になり、レベルごとの組み合わせでいくつ以上という選択形式が取られています。

 印刷すると800ページにも及ぶという大半は、スキル熟達度のスキル領域で分類されたスキル定義です。この部分もかなりの改良が施されており、レイアウト自体も見やすく変更になります。また知識項目の記述は切り出して別冊になる予定です。さらにディクショナリと呼ばれるスキル定義マスタの位置付けのものも提供される予定になっています。
 大容量になるのは致し方ないですが、今後のメンテナンスを考慮した構造体になっているのは、大きく評価できる内容です。
ITSSバージョン2.0に寄せる大きな期待
 改訂委員会は先週最終回を迎えましたが、IPA・ITスキル標準センターのこれに賭ける意気込みは並々ならぬものがあります。それが成果として表れています。内容としても大きく評価できるものとなるでしょうし、次のステップも見えてきています。今まであまり見ることのできなかったITSS自体のロードマップも、かなり明確になってきたからです。道のりは長いですが、着実な進歩が目に見えて分かります。最後に委員に配布された「ポケットブック」いわゆる業界で言う「じゃばら」は、委員の間でも大好評でした。今後は事例集や導入手法のガイドブックも出てくる予定であり、またITSS/V2リリースを機会に、IPAでも一大キャンペーンを打つことを企画されており、IT業界としても大いに注目していくことになるでしょう。
登録:2011-01-30 15:44:11
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