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コラム
第57話:ITSS導入を進める企業、果たしてその中にいるエンジニア個人は何を考えるか。
 @ITで有名なITメディア代表・藤村氏の依頼を受け、去る3月11日(土)に稚内北星学園大学東京サテライト校(秋葉原)で講師をしました。社会人学生の方々と接して、ITSSのリリース以来殆どが企業にフォーカスされた話ばかりだったのを、あらためて認識しました。企業がITSSを導入した場合、様々な問題に直面するのは現場のエンジニアなのです。そのエンジニア自身にあまりフォーカスされていないのは、とてもバランスが悪い状態ではないでしょうか。
稚内北星学園大学東京サテライト校でのチャレンジャブルなプログラム
クリックすると拡大  @ITで有名な藤村氏から声がかかったのは、昨年6月でした。稚内北星学園大学・東京サテライト校で興味深い講座の企画をしている、というのがその内容で、企画書を見せていただきました。藤村氏とは、2年ほど前まだ日本オラクル在籍中、パソナテック社のパネルディスカッションでご一緒しました。お名前は当然知っていましたが、その時が初対面でモデレータをされていた氏の巧みな話術と、知識・経験の深さに舌を巻いたのを憶えています。

 稚内北星学園大学は15年ほど前からUNIX、C言語、ネットワークなどITの技術教育を展開。当時はカリキュラムにUNIXやC言語を取り入れている大学は少なく、UNIXやC言語教育の先駆者としての役割を果たしてきた先進校です。現在も技術進化の速いIT業界で活躍できるエンジニアの育成を目標に掲げ、JavaやLinux、ネットワークといった「現実のIT現場で役立つスキル」を中心とした教育を実践しています。2005年春に東京にサテライトスクールを開設して、IT技術の不断の革新の中で生まれている、IT技術者の再教育に対する社会的な二―ズの高まりに、積極的に応えています。
 「技術の進化を考えると学生だけでなく、現場で活躍する社会人のエンジニアであっても、大学に立ち戻り学習できる環境を整備することは、大学の社会的使命」(丸山学長)という明確な考えの元、展開されています。

 この企画は「ITエンジニア コンピテンシ開発方法・概論」と題され、全編を通じて「これからの10年、変化するIT」を念頭に、社会人エンジニアが、これからのキャリアをどう築くかという視点において、毎回さまざまなアプローチ(切り口)を提示してくというコンセプトで、2005年7月にスタートし2006年3月に終了するという以下の内容の全11回の構成となっています。

−IT、特にエンジニアリング職に将来的な希望が見いだせないという…→それはどうしてか?
−企業内で中堅的地位のエンジニア→これからの10年をどう見通すのか?
−ITエンジニアにはどのような将来性があり得るのか?
−「セルフモチベーテッド エンジニア」(藤村氏の造語)であり続けるためには?

@「社会人エンジニア、これから10年間のキャリアマトリックスとは」
A「モデル駆動型ITエンジニアリング時代のコンピテンシとは」
B「開発受託業としてのIT、その問題と可能性を考える」
C「ユーザー企業内ITアーキテクト その考えること・すること・求められること」
D「ITアーキテクトが取り組む技術課題とは」
E「社会人エンジニアが直面する“人生の転換期”とどう向き合うか」
F「現場をどう生き抜くのか―プロジェクトマネージャーとしての必須コンピテンシ10ヵ条」
G「ITベンチャー、成功するエンジニアと失敗するエンジニア」
H「組み込み製品分野におけるシステムズエンジニアリングの中心課題とは」
I「独立エンジニアへの道、独立からの道」
J 「ITSSマトリックス―エンジニアはどう見通すのか、どう歩むのか」
最終回 「ITSSマトリックス―エンジニアはどう見通すのか、どう歩むのか」
 私は11回目最終回の担当で、私にとっても藤村氏とのやりとりは、示唆に富んだ貴重な経験となりました。
 まず最初に藤村氏がITSSについて投げかけられたのは、以下の3点です。

・「ITSSは自分にとって役に立つのか?」
 企業(雇用者)やサービス購入者にとっての物差しでは?
 フレームワークは評価なのか? 自分のキャリアと関係があるのか?
・「だれかが資格のように認定してくれるのか?」
 名刺にシールを貼れるのか?
 転職・昇進の客観的な道具になるのか?
・「使えるツールなのか?」
 周囲では全然知られていないけど?
 フレームワークにあてはまらない気がする

 それに対してITSSの説明から入り、今までの人材育成、キャリアデザイン、さらに環境の変化と現在の状況を述べ、企業の視点と個人の視点からITSSの必要性を語りました。
 今回私が受講生の方々に話したかったのは、企業のITSSに対する取り組み状況と、その状況やITSSそのものがITエンジニア自身のバリューをアップするためのチャンスとなるということです。
必ずITSSと対峙することになる
 ユーザー企業も含めて、ITに関係する企業のITSSへの関心度は日に日に上がっています。ITエンジニア個人は、日ごろの仕事の忙しさの中で、それほど感じていないかもしれませんが、何らかの取り組みを具体的に始めている企業が多くなってきています。これは、ITSSがらみの活動を続ける中での生々しい実感です。さらに先回のコラムでも書いていましたように、4月1日にITSS V2が出てきます。これでかなり普及が加速すると推測しています。
 つまり、ITエンジニア個人であっても、企業が導入する限り、また派遣登録や契約社員でも同じですが、嫌がおうにも近い将来ITSSと向き合うことになる可能性が高いのです。それなら、早いうちに自分なりに消化して武器にする方が賢いということになります。
 それを伝えたくて懸命に話しました。本来、ITSSはITエンジニア個人のものであり、自分のITエリアでのバリューや将来のキャリアデザインができるツールなのです。これを有効に使わない手はありません。押し付けられて従うのではなくて、自らをアピールしていくチャンスだと前向きに捉えることが重要です。まじめにしっかりやっているエンジニアが評価されなくて、実力が無いのにうまく立ち回る者が、昇っていくような不公平はこれでかなり是正されると考えています。本当に実力とエンジニア魂のある方々を正当に評価し、モチベーションを上げていくことが可能になるのです。
講座を終えて
 この講座が最終回ということもあり、藤村氏の締めのお言葉からエンジニアを大事にし、よりよい将来にするためにどう考えればいいかという熱いお気持ちがメッセージとして伝わってきました。自分の将来を真剣に考えるエンジニアなら、以下の点をしっかりと認識して、目標を明確にしていくことが重要です。

・ITSSをどううまく使っていこうか?
・スキルとキャリアは連動するだろうか?
・プロフェッショナルな能力を磨くには?
・総合的に何を心がけていくか?

 何名かの方々が質問されましたが、私は少し安心しました。ITエンジニア個人の方々は、ITSSに対して殆ど無関心で知識も持っていないのではないだろうか、そう考えていましたが、質問内容にITSSに対する理解度の深さや期待度の高さが表れていました。少なくとも、この講座を受けていただいた皆さんは、ある程度認識してくれた、そう感じましたし、藤村氏の締めくくりにもそういったことが含まれていました。

 ITエンジニア個人に対する情報が極端に少ない中、こういった場を提供いただいた藤村氏には感謝しています。もっとこのような機会を増やして伝えていかなければいけない、そう心を新たにしました。
 また、仕事をしながら土日に学んでいる社会人学生の皆さんと接して、日ごろエンジニアや経営者の意識の低さ、向上心の無さに接して疲れていた中で、こちらが救われた感じがしました。この方々がモチベーションを上げて達成感のある仕事ができる世界を創るのは、皆の将来に対する大きな責任です。
登録:2011-01-30 15:44:22
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