スキルスタンダード研究所は、各業界へのスキル標準の活用・推進、プロフェッショナル人材育成に向けたコンサルティングサービスを提供します。
ITスキルスタンダード研究所
スキルスタンダード研究所についてニュースサービスドキュメントコラムお問い合わせ
コラム
第58話:動き出せるか、ITSSを活用した地域の人材育成〜その3 DEOS主催・北海道でのITSSイベント
 3月23日に開催されたDEOS(北海道ソフトウェア技術開発機構)主催の北海道でのイベントの模様をお伝えします。名古屋、福岡に続き、最近の地方展開第3弾です。名古屋はいよいよ具体的に動き出し、福岡も触発されて大きなうねりを感じます。そして以前からITSSに対して積極的に活動して来られた北海道にも、その気配を感じます。いよいよ地方でも本格的な動きが出て来る予感がします。
ITSSに活路を見出したい方々の現実の話を聞きたいという思い
クリックすると拡大  DEOS主催のセミナーでは、この1年間実施して来られたITSSに関する研究発表と、IPAからV2に関する話、そして私は失敗事例・好事例と題して具体的な活用事例についての話をしました。これは、DEOSからの強い要望で、ITSS自体の話ではなくて実際に適用されている企業の状況を知りたいということから来ています。
 今回私はチャレンジをしました。今までの経験から多くの事例に接していますが、うまく行った事例以外をまともに取り上げたことありません。しかし今回は、資料にこそしませんでしたが、口頭で代表的な失敗事例を6つほど細かく説明しました。資料もなく話すだけでうまく伝わるか、自分の評価や感情を入れず淡々と話せるか、それらがポイントだと思っていました。いいと思って適用された企業を非難することになっては、逆に普及の阻害要因となってしまいます。現実を話して内容についての判断は聞いておられる皆さんにしていただこう、そういうスタンスで臨みました。
 結果から言うと大成功で、私のセミナー内容に対して参加者の皆さんから大きな評価をいただきました。アンケート結果にも現れていますが、セミナー後の懇親会でも、多くの方々から高い評価を頂きました。日ごろの活動の中で、こう言うと誰それに影響がある、自分たちの立場が悪くなる、という雰囲気が蔓延していて、ふと気づくと自分はいったい何をしているのか、と思うことがよくあります。
 真剣に取り組もうとされている方々は、現実の状況を知り、自分たちの今後の活用に生かしたいのです。遠回りしたくないのです。そのために偏らない整理された情報を伝えていくには、使命感と強い意志、それに関係者の協力支援が必要です。
セミナー内容について
 参加者の皆さんにご提供した資料には、詳しい内容を載せられなくて使い勝手の悪いものになってしまい、最初にお詫びしてから内容に入って行きました。
話した内容の一部を紹介します。

<ケース1 中堅SIベンダー>
・経営判断でITスキル標準を社内導入することを決定し、人事担当者をアサインして取組み開始。
・担当者が独自に調査した後、ほぼそのままの形でITSSを人事制度に導入。
 そのまま取入れたことで、会社のビジネス上必要の無いスキルまで評価対象となり、技術者の評価が以前より下がる結果となった。役職にまで連動させたので、降格・減給になった技術者も出た。
・技術者の意見
 「長年かかって仕事をこなし会社に貢献して来た結果、役職も上がり給与も上がってきた。それがある日突然、ITSSを導入され、仕事の範囲とかけ離れた職種を割り当てられ、必要の無いと思われるようなことまで評価され、レベル2だと判定されて降格してしまった。ばかばかしくて続ける気がしない。辞めたい。」
 「事前にITSSの位置づけや係わり、評価との繋がりなどの説明を求めたが、納得できるような答えは無かった。単に国が決めたからの一点張りであった。」

<ケース2 地方ソフトハウス>
・2004年後半に人材育成のためにITSSを取入れるべく調査開始するも、情報が少なく内容の理解ができなかった。大手ITベンダーに相談したところ、教育ベンダーを紹介された。
・営業が来て診断ツールを使った「スキル診断」をすることが、導入の一番早道だと説明を受け、デモを見て結果のグラフなどの説明を受けた。
・とにかくやってみようと技術者全てに、スキル診断ツールで自己診断させた。
・診断結果は、個人ごとにレベル、グラフや傾向など分かり易そうなものばかりで、その時点ではいい材料のように思えて満足した。
・その後教育ベンダーの営業は、診断結果をもとにしたトレーニング受講の提案を持ち込んできたが、大きな金額となっている上、今まであったトレーニングが並んでいるだけで、とても受け入れることができるものではなかった。
・それで、会社として次のステップは?と考えたとき、言われるとおりにした結果、トレーニングの提案を受けた事実しかなく、これでは今までと何の変わりも無いことに気づいた。

<ケース3 中堅SIベンダー>
・F社は、早くからITSSに注目していたが、自分たちでは理解度が低いし、上手く導入できないとの考えから、繋がりのある中堅SIベンダーに相談した。
・コンサルタントを紹介してもらったが、今までの人材育成コンサルの実績から信頼できると判断し契約した。
・コンサルタントは、技術者とのインタビューを繰り返し、何種類ものエクセルの表を使って、分析を実施した。約3ヶ月で終了したが、出てきた結果は様々な分析がされていて実態を表現しているように見えた。
・そのあと、自社でそのエクセル表を使って継続運用していく話しだったが、実際にやってみると現場技術者や、担当者に膨大な工数がかかって続けて行けるような内容では無かった。
・また、そのコンサルタントは分析や人事コンサルタントとしてはノウハウを持っていたが、ITSSについての説明が余り無く知識不足だった。結果として無理に合わせているような形になっていた。

<ケース4 中堅SIベンダー>
・G社は、経営者から指示を受けた人材育成担当者が、ITSS導入実施のため、調査をスタートした。
・情報が少なく理解が進まなかったので、経営者にコンサルタントの採用を提案したが、ITスキルのことを自社で出来ないのはおかしい、とはねつけられた。
・色々考えたが分からず、とりあえず診断ツールを使うことにし、XXXX万円かけてツールを購入した。
(考えることにお金を使うのはNGで、手段に費用が発生するのはOK?)
・1回目の診断を実施したが、実際と職種が合っていない、スキル内容が抽象的だなど、現場技術者からのクレームが殺到した。
・目標を決めずに、このまま続けても意味が無いと思いつつ、とりあえず1年後の2回目もやることになると考えている。
ITSS導入において、どこに気をつければいいか
 先にも書きましたように、ITSSを何とかうまく活用したいと思われている皆さんが知りたいのは、このような現実的な内容です。失敗かどうか、良いか悪いかは、聞かれた方々が判断すればいいと思っています。そのためにいかに客観的に伝えるかが重要だと思っています。難しいとは思いますが、恐れずチャレンジしていきたいと考えています。
 事例のケースをまとめると、「経営者向け概説書」にも載っている以下の内容が重要ポイントです。

<ITSSの企業導入時に、必ずしなければならないこと>
・経営者自らが内容を理解し、リーダシップをとること。
・推進者に優秀な人材をアサインすること。
・ビジネス目標、経営戦略、IT戦略から「目標人材モデル」を策定すること。
・導入後の継続運用についても十分に検討すること。

<ITSSの企業導入時に、絶対にしてはいけないこと>
・議論せずにITSSをそのままの形で取り込むこと。
・理解度の低い担当者に丸投げする(責任を押し付ける)こと。
・「目標人材モデル」を策定せずにスキル診断を行い、人事に取り入れること。
地方には情報が無い?
 地方の多くの方々が誤解されています。ITSSに関しては首都圏でも取れる情報が少なく、地方でも変わりません。差があるのは、セミナー関係が首都圏では比較的多く実施されていることくらいです。そのセミナーも1企業がビジネスのために開催しているものが多く、事例という点においても偏ってしまうケースが少なくありません。それよりも、北海道や名古屋、福岡のように地域ソフトウェアセンターや情産協、地域に根ざした団体などが実施しているセミナーの方が、参考になるケースも多いと思います。そういった団体の方々は、地域を良くするために日々頑張っておられて、主旨や使命感という点においては、首都圏のそれよりずっと上回っているように感じます。また、各地域でのセミナーに参加される方々も、かなり危機感を持っておられるのに比べ、首都圏での景気が上向く中において、人材育成の必要性より以前のような人を提供して儲かる手っ取り早いビジネスへの期待感が戻ってきており、危機感が薄れ始めている気配がします。情けないことだと思いますが。
登録:2011-01-30 15:44:46
 サイトの利用について | プライバシーポリシー | 情報資産管理方針 |
トップページへ戻る