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コラム
第60話:ITSS V2の真髄 〜その1
 4月13日に、ITSSユーザー協会主催でIPA・ITスキル標準センターから講師をお招きして、本邦初「ITSS V2セミナー」が開催されました。150名の定員があっという間に一杯になり、申し込み遅れた方から、何とか入れないかという電話が何本もあった位の大盛況でした。聞かれた方は、ITSS V2の良さを実感されたと思います。今回はそれをさらにシンプルに活用サイドから捉えてみます。
ITSS V2の捉え方
 次の@〜Bは、ITSS V2の概要編からの抜粋です。

@「企業によってビジネス戦略が異なる以上、投資すべき対象職種も異なる。このため、ITスキル標準を企業へ適用する場合には、ITスキル標準の定義内容は共通指標として活用し、自社のビジネス戦略に合わせて企業固有の定義内容に置き換えた指標を設定することが求められる。」 
A「各企業は、ITスキル標準を共通指標として現場で特定できるレベルで解釈あるいは再定義し、企業固有の指標として適用する。これにより、企業間の解釈による差異を少なくすることができる。」
B「また、ITスキル標準の位置づけは、基準や仕様ではなく、参照モデルである。すなわち各社がビジネス戦略の実現を目的に、人材の育成に関わる様々な立場の人が人材育成について共通の認識を持つために参照する指標ということである。「標準」といっても、自社のビジネス戦略の実現に必要な部分だけを参照すればよい。すべてを必ず使う、そのまま使うという位置づけにはないという理解が必要である。」

 この文章のキーを取り出すと以下のようになります。

・「共通指標」
・「ビジネス戦略に合わせて企業固有に再定義」
・「参照モデル」
・「すべてを必ず使う、そのまま使うという位置づけにはない」

 今までのカスタマイズしてもいい、してはいけないという議論が不毛だったことが分かります。もし、カスタマイズにフォーカスしてITSSを語っていた方々がおられたとすれば、本当は正しく理解していなかったということになります。
企業固有とはどういう意味か
 次の文章も、やはりITSS V2の概要編から抜粋したものです。

「ITスキル標準は、事業活動における個人の貢献を的確に評価しようとする観点から活用することが必要である。人材投資という経営判断やビジネス戦略が伴わないままITスキル標準を導入することは、自社のビジネスや技術を担い、競争力を支えていくプロフェッショナルの重点育成策にはつながらない。ビジネス戦略に乏しく、単に人事管理上の便宜性や処遇制度の見直しのために利用するだけでは、逆に個人のモチベーション低下につながる恐れもある。」

 ここで意味している「企業でITSS V2を活用する」というのは、以下の内容になります。

@ビジネス目標達成に貢献する人材を育成・調達するためには、ビジネス戦略を元に目標とする人材モデルを定義する必要がある。
 (ビジネス目標達成のためには、どのくらいスキルを持ったエンジニアがそれぞれどのくらいの割合で必要か。)
Aその目標モデルと現在のリソースの状況とのギャップより、人材投資計画を立てる。
Bビジネス目標に対してのエンジニアの貢献度を、どのような尺度で評価するかを明確にする。
C人材育成計画立案、実施、投資効果把握・評価、改善のP-D-C-Aをまわす運用モデルをデザインする。
それぞれをどのようにブレークダウンしていくか
 先の@〜Cを具体的に見て行きます。

 @の中では、まずITSS V2を導入しようとする企業自身のビジネス戦略、経営計画などから、ビジネス目標達成に貢献するエンジニアに対するリクワイメントをまとめて行くことになります。通常、ビジネス戦略や経営戦略を記述した資料には、人材に対して多くは定義されていません。しかし、人材に対する要求ということにフォーカスして行けば、明確にすることは可能です。このフェーズは、システム構築工程で言うところの「要求分析フェーズ」に当たります。この場合は、エンドユーザーのニーズを分析するのではなく、ビジネス観点で企業の必要とする人材に関するニーズをまとめることになります。具体的に言うと、新規案件を次々と獲得する営業戦略を立てるのと、既存顧客を主体として改善の提案から新規プロジェクトを起こしていくのは、観点が異なります。
 次に企業がビジネス目標を達成している想定において、どのようなファンクション構造になるかを具体的にしていきます。これは現状のタスクなどを無視するわけではなく、その上に立ってのTo-Beファンクションを求めることになります。これはシステム構築工程で言うところの「機能分析フェーズ」に当たります。
 そして、そのファンクションを実施するために必要となるスキルは何か、つまり仕事をするための能力を定義することになります。ここで有効に活用できるのは、ITSS V2「スキル熟達度」で定義されている内容や「スキルディクショナリ」です。必要なものを取り出してくればいいということです。ここで、ビジネスモデルによっての過不足が明確になり、必要ないものは選択せず、不足しているものは追加していくことになります。追加対象となる代表格は、要素技術、業務・業界のスキルなどになります。
 しかし、これだけだと仕事をするためのスキルのみの定義となり、実際に実行して成果を出すためのスキル、一般的にはコンピテンシーと呼ばれているものが欠落しています。ITSS V2にはコンピテンシーは定義されていません。これは、コンピテンシーは非常に多岐に渡るのと、企業独自の表現などが入り、共通化しにくい、しても誤解が生じる恐れがあるという理由だと考えられます。コンピテンシー自体は、人材モデルを構築する上では欠かせないものなので、それぞれの企業で追加していくことになります。大方の企業が職務定義や職能定義など参考にできるものをお持ちなので、うまく活用することができるでしょう。
 コンピテンシー割り当ての考え方は、次のようになります。

・職種縦割りで割り当てていく。(職種独自で存在する)
・レベル共通で割り当てていく。(職種共通)
・職種・レベルに対して一つづつ割り当てていく。(職種数×レベル数)
・下位レベルは共通化する。
・どの方法にしても共通的に使えるものは、まとめて共通化しておく。

 ビジネス目標達成に貢献する人材というのは、企業独自の職種・専門分野・レベル観で表すことができます。ITSS V2で定義されている職種などを参考にするのは、もちろんOKですが、ビジネスモデルとかけ離れたものを使うのは得策ではありません。各企業でビジネスモデルが異なる限り、同じ職種名であっても役割、責任範囲、必要なスキルなどが異なります。それだったらエンジニアがしっくりと来て、しかも夢が持てるものを企業独自で設定する方が現実的でしょう。

 A目標人材を明確にすることができれば、現状を把握する手段はたくさんあります。ただし、参照モデルであるITSS V2キャリアフレームワークを対象にしてギャップ分析をしても、企業の意思も入らずビジネスモデルも反映されているわけでもないので、効果が薄くなります。あくまでも@で求めたビジネス戦略を基にした人材モデルを使うことが必要です。その中でのギャップを把握できてはじめて、人材投資計画を立てることができることになり、そうすれば投資後の効果測定も容易で明確になります。

 Bは実際に成果を上げたエンジニアの評価についてですが、ITSS V2では「達成度指標」として明確に定義されています。しかも、大企業表現ととられてしまった旧バージョンと違い、選択方式でコンパクトにまとめられています。これを参照して評価指標を策定します。
Cただし、これは評価指標ですから、上司なり第3者が評価するプロセスとともにデザインする必要があります。ツールなどで、評価することは困難です。
 またITSS V2を導入しても、それが目的ではありません。人材育成は継続していく必要があるわけですから、内容を良く分かった方や運用体制が必要です。また、構築されたものも、改善しながら良いものにしていく考え方が基本になります。
 見直しのタイミングとしては以下が考えられます。

・企業の形態変更(戦略・方針変更、ビジネスモデルの変更、組織変更、制度変更など)
・ITSSの変更(バージョンアップなど)
・定期的確認、改善(期末・期初における確認時、コミュニティなどにおける確認時)
まとめ
 To-Beファンクションからは、その仕事に必要なスキルしか導き出せず、実行力に当たる(成果を出す)コンピテンシーは、職種やレベルごとに当てて行くのが妥当だと考えています。そのコンピテンシーも、共通化できるものと、職種固有やレベル固有のものがあると考えられます。ITSS V2には定義されていませんが、それだから追加しないと企業では使えない場合が多いということです。先に書きましたように、人事制度の中で定義されている企業も多く、活用するねたは豊富です。ただし、現実とややかけ離れている場合も多く、ITSS V2導入は、根拠だてた見直しをする絶好の機会でもあります。
 今までも何度も書いていますが、ITSS V2導入というのは直接的な制度導入ではなく、言い換えると人事や人材開発が独自に作成したものを現場で使わせるものではなく、導入過程にエンジニアに参画させて自分たちのものを策定していくというムードを作っていくことが重要です。誰もが賛成するのは難しいものですが、少なくとも押し付けられたものではなく、自分たちがいいものにしていくもの、という認識を浸透させることが重要です。
▲▽ 関連サイト ▲▽
9月20日出版「ITSS V2の分かる本」
登録:2011-01-30 15:46:04
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