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コラム
第85話:「ITSS V2」、「UISS」についての理解〜その3 IT業界でのITSSの捉え方
「ITSS V2 2006」がリリースされて、いよいよ改定のサイクルもパターン化されてきた感があります。形だけにとらわれずに、このタイミングでITSSをしっかりと見直し、正しく理解する必要があります。
ITSSは何をどう定義されているのか
 ITSSで定義されている職種では、実質的な経営者や経営層を表現することはできません。つまり、経営者や経営層があってその統率の下、現場で働く方々の職種として定義されているものです。さらに突き詰めていくと、ITサービスを提供するという観点で、販売活動/提案/分析/設計/開発/運用というITサービスを提供するための各フェーズ単位で、現場でその役割を担うため、及びそれらを管理するための職種ということになります。そこに教育研修の提供という教育ビジネス観点の職種がプラスされているということです。ですから「ITサービスを提供する企業を経営する」ための直接的な観点は、そこには存在しません。定義内容も現場視点になってITスキルや達成度指標が記述されています。
 では、今までの経済産業省やIPAが言い続けてきた「経営戦略無きITSS導入は意味を成さない」とは、どういうことなのでしょうか?さまざまなドキュメントなどにも、とりわけ強調して書かれています。別に経営者や経営層をスキルで表現する必要がありませんが、ITSSがフォーカスしている範囲に経営観点が見えないのは確かでしょう。それなのに「ITSS導入は、戦略から入らないといけない」というメッセージは、ITSSを活用したいと考えている側にとっては難解かもしれません。
ITSSとユーザ企業
 筆者がまだUISSが出ていない時にコンサルティングしたユーザ企業は、ITSSについて、経営観点やMOT(コラム第21話参照)の観点が不足していると的確に指摘していました。ここで述べたいのは、経営観点のあるなしがいい悪いということではありません。事実としてそうであり、よって企業自体のビジネス戦略を強く意識したユーザ企業IT部門では、不足感があるということになります。なぜITSSがユーザ企業では使いにくいかという点を上辺だけの話で言うと、たとえば「顧客」などに代表されるITSSでの定義内容(文言)がユーザ向けでなく、ITサービス企業向けだということですが、先に述べた根本的な観点の差があるわけです。
 ただし、ユーザ企業のIT部門でも、ITベンダ並みに実際の開発までこなしているところもあります。逆にITサービス企業に大きく依存している企業もあります。このように適用範囲は広がりますので、UISSで定義されているスキル内容だけでは過不足がある場合があります。それら現状を踏まえて現時点の弊社のコンサルティングでは、ユーザ企業、ITサービス企業に関わらずUISSとITSSを組合せて活用するような考えで進んでいます。
 
キャリアマネジメント
クリックすると拡大  次に「導入」という言葉について考えてみましょう。よく「すでにITSS/UISSを導入済みだ」という話を聞きます。では「導入」というのは、どのような状態を指して言うのでしょうか?
 UISSを例にとると、UISS概説書の最後の方に載っている「活用プロセス」(図参照)が、導入作業中の段階であり、つまり運用をスタートする直前までのものであり、その中で策定した組織機能・人材像(役割)・スキルセット・運用プラン・トレーニングプラン・評価プランなどを元に、運用しながら改善を進めるPDCAをまわしている状態が、導入済み、言い換えると運用中の状態だと定義できます。つまり、UISSを活用するのは、運用開始をするまでの手順の中だけであり、全てを使おうが一部を参照しようが「参照モデル」という位置付けで、UISS活用企業に自社独自のモデルを作るための素材と手順を提供しているということです。
 たとえば自社のキャリアマネジメントプログラムを構築する場合、UISSはあくまで部品であり、導入作業中、特に前半はキーワードとして頻繁に出てきますが、後半や運用開始後はほとんど出てきません。これは、導入することが目的ではないということの表れです。
ITSS活用の視点
 以前から繰り返し言っている3つの活用の視点は、以下の通りです。

@企業のビジネス目標達成に貢献する人材育成
A企業間比較、人材調達
B企業を離れた個人の価値の可視化、キャリアデザイン

 @については、企業戦略からどのようなスキルを持った人材(目標人材モデル)が必要かを定義し、現状とのギャップから人材戦略と投資計画を策定するという流れになります。つまりここでは、ITSSで定義されている職種やスキル定義などをそのまま使うというのが無理があるわけです。なぜなら各企業でビジネスモデルが異なるために、たとえば同じコンサルタントという名称であっても、責任範囲やスキルセットは異なるからです。
 ただし、ここで先に述べたITSSには経営観点ではなく現場観点で作られていることを考えると、UISSの活用プロセス(図)と同様の手順を踏む必要があります。
 Aは、ITSSで提供されているものを変更せずにインターフェースとして使うことになります。自分の会社はどの職種のどのレベルが何人いるという客観的価値基準に使えます。ただし、人材調達の場合は個別技術スキルや業界業務スキルが必要となることも多いため、ITSSは目安として使って実際には面接するなどの工夫が必要でしょう。
 人材の流動性を図るなど国策として機能できる部分でもあります。一方UISSは、流動性とはほとんど無縁で、IT部門どうしの比較をすることもほぼ無いといっていいでしょう。いかにIS戦略を実現してビジネスに貢献するかが基本となります。
 Bは、まさに企業を離れてIT業界の中でエンジニア個人がどれほどの市場価値を持つか、また将来どのようなパスをデザインできるかなど、IT業界の資産であるエンジニアにスポットを当てる本来最も重点をおきたい部分でもあります。

 どの視点で何の目的で活用するのかを、事前にしっかり定義しておくことが重要です。それが無いまま進めると、必要性をマネジメント層やエンジニアに説明ができなくなります。説明があいまいだと賛同してもらえず、いい結果に導くことは難しいのです。
▲▽ 関連サイト ▲▽
高橋秀典著「ITSSエンジニアリング」の本
登録:2011-01-30 15:50:39
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