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コラム
第144話:ITSSのたどってきた道 〜最新版「ITスキル標準 概説書」 の読み解き(3)
 刷新された「ITスキル標準 概説書」の読み解きを進めてきましたが、先回までのとりまく環境などの話を終え、いよいよITスキル標準そのものについて、その考え方や構造の理解を進めましょう。
理解促進初期段階、試行錯誤の期間(ver1.0、1.1:2002年12月〜2005年3月)
クリックすると拡大  2002年に公表されてから7年目になりますが、活用する側の企業の反応はあきらかに変化しています。
 公表の当初は期待が大きく、初めての試みに多くの企業、ITエンジニアが興味を抱きました。
 しかし、中身を見ると900ページ以上に及ぶ日本語定義の山で、しかも数字や言い回しが少しづつ変化しているだけで、何をどう表現しているのか分かりづらいものに見えました。
 多くの評価は、考え方のよさを評価する声もあるものの、「使えない」、「理解できない」、「活用方法が分からない」に終始する結果となりました。
 少し遅れて概説書第1版も公表されましたが、その中で紹介された数社の適用事例は、全てが人事制度に使ったというもので、現在でも課題である「人事制度への活用法」が固まらないまま、事例の無さから取り上げざるをえなかった状況が表れています。
 ITスキル標準では、企業力を向上するために人材育成での活用を1番に挙げていますが、企業の理解が進まないまま、人事制度などの評価に直接適用したものしか無かったということでしょう。
 その事例を概説書に載せること自体が、主旨とずれていく危険性をはらんでいることを予想できなかったのが1つの誤算かもしれません。
 結局、私の知る限り、紹介された内容で継続できている企業は、ほとんど無い状況です。

 この初期段階を振り返ると、次のような状態であったと言えます。

・よく整えられた考え方は素晴しいが、内容を伝えるためのドキュメントや手段が不十分
 -ドキュメントは「定義体」として膨大な量で提供されていて、ディティールは分かるが、全体を理解しにくい
 -活用するためのガイドがなかったため、試行錯誤するしかなかった

・ITスキル標準のプロフェッショナル、エバンジェリスト的存在が不在
 実証実験などのシミュレーションがされないまま公表されたので、推進する立場であっても、人により理解が異なったり、思い込みによるアンバランスがあり、ミスリードが目立った。

 以上は、多くの方が感じた客観的な状況ですが、私は以外にも受け取る側の、つまりITスキル標準を活用しなければならない側についても、大きな問題があったと考えています。
 ひとつは、評価者のごとくITスキル標準の粗探しをする方が多く、いいところを認めて積極的に使っていこうという姿勢が欠けていたということです。
 ふたつめは、IT業界自体の人材育成に対する姿勢の問題です。
これは何度も述べていますので、詳しくは書きませんが、下請け構造の中でいかに人を集めるかという視点でビジネスを進め、人材育成を怠ってきたという、今迄のつけが廻ってきたとも言えます。
改善〜活用初期段階(〜ver2._2008:2006年4月〜2008年3月)
 2006年4月に公表されて4年目にして大きな改善が加えられ、ITスキル標準V2として新たに登場しました。
 それまでほとんどの人が、「スキル熟達度」と「達成度指標」の両方をスキルだと理解していました。
 初期段階で、教育ベンダ主体にスキル診断ツールなるトレーニング受講に結びつけることが目的の仕組みが登場しました。その内容から、スキル熟達度と達成度指標について誤解していることが容易に見て取れます。
 
 V2ではそれらの課題を解決するため、分かりやすさと使いやすさを追求するという方針に基づき、次のような大きな改善を行われています。

(IPA「ITスキル標準 活用の手引き」より)
・基本構造の明確化
・ドキュメント構成の体系化
・評価基準の明確化

 これまでは、全ての定義が職種・専門分野・レベルの単位で記述されているため、よく似たスキルや全く同様のスキルなどが何度も登場し、大量のドキュメントになっていました。
 これはこれで、ピンポイントで見るために必要なのですが、V2からスキルディクショナリも用意され、スキルや知識のコンテンツをマスタの観点で見ることができるようになりました。

公表当時から一貫して変わらぬ活用状況
クリックすると拡大  このようにITスキル標準の品質は確実に向上し、注目度も上がったものの、企業の活用状況については、2002年公表当時から画期的な変化はできていないと言わざるをえません。
 その理由は、次のような活用推進者や関係者の認識によるものです。

(IPA「ITスキル標準 活用の手引き」より)
・標準なのだから変えてはいけないと考え、提供されているキャリアフレームワークのどの職種のどのレベルに、何人いるかを明らかにすればいいのではないか
・経営層も、自社はIT業界の中でどのくらいの位置づけなのか知りたいと考えている
・以上から、キャリアフレームワークのどこに何人いるかを明らかにすることで、外部アピールに使えるのではないか
・評価指標として、そのまま人事等級枠として使えるのではないか

 このような考えで、自社ではキャリアフレームワーク中の、どの職種のどのレベルが何人かという現状把握が主体となり、それを毎年続けているという企業もあります。しかし、提供物をそのまま使っても、ビジネスモデルも戦略も異なるはずであり、企業で効果的に活用できているとは言えません。
 そればかりか、キャリアフレームワークをそのまま使って現状把握をしても、企業目標に添ったあるべき姿(To Be)がないので、ギャップ分析もできず、組織力向上やそのための人材育成策として何をすればいいかが明らかにならない、ということになります。

 つまり、企業のビジネスモデルや戦略に沿った仕組みを構築しなければ、「経営戦略や事業計画を基本としたITスキル標準の有効活用」ができているとは言えないということです。

 ITスキル標準を企業で活用するには、次の2つの視点があり、どのような目的で活用するかを明確にする必要があります。

・企業戦略視点
 ビジネス目標達成に貢献する人材の育成
・企業間比較、調達視点
 IT業界内での位置づけ、企業間比較、またはIT人材の調達など
活用段階(ver3〜:2008年4月〜)
 IPAの方向性は、「活用促進」にほかなりません。
数年かけて内容の改善に尽力してきたのですから、今後は活用促進に大きく舵を切るというのは、活用企業にとっても大歓迎でしょう。

 先述のように、今迄活用から先は企業側に任せていたことによって、本来の目的に沿った活用促進は遠回りを強いられてきました。
 私見ですが、ITスキル標準の提供元であるIPAの視点が提供物の改善主体であり、理由はともかく導入手順や活用方法をガイドできなかったことが、本格活用という面で一部の企業にとどまってしまった大きな要因であると考えています。

 ここにきて、IPAスポンサーの札幌での実証実験、及びその報告書の公表や、目を見張るべきは、今迄手をつけなかった「活用の手引き」の公表に至っています。この手引書は、実証実験で使われたもので、大変具体的な内容になっています。

 実証実験第2弾も企画され現在IPAで公募中です。ここからも、活用促進における並々ならぬIPAの本気度を感じることができます。
▲▽ 関連サイト ▲▽
「ITスキル標準 導入プロセスの実証実験報告書」
「ITスキル標準 活用の手引き」
登録:2009-06-29 18:58:58
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