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コラム
第160話:IPAが『IT人材白書2010 概要』を公開
 少し前になりますが、4月7日に『IT人材白書2010』概要が公開されました。本編については、5月下旬に発行される予定です。
 概要からは様々な変化が見て取れます。今回はそのポイントを紹介します。
ITスキル標準の普及率
クリックすると拡大  概要版としてpdfで公開されている資料のP20にITスキル標準、P22にUISSの普及率が、それぞれ掲載されています。
 ここで、前提として考えておくべきは、企業にアンケートを送ると、人材育成担当者や担当部署にまわることになり、自らのミッションとなる人材育成に関して、あまりうまく行っていないとは言いがたいという面があります。
 また、ITスキル標準の場合だけに言えることですが、一般のスキル診断を年1度程度実施していることで、導入していると勘違いしている企業が結構多いという現実もあります。

 まず、ITスキル標準では、「大手IT企業の間でほぼ普及完了に到達。しかし中小IT企業への普及は伸び悩んでいる。」としています。

 確かに1001名以上の大手IT企業への普及率は82.4%となっており、前年の59.0%から大きく値が伸びています。反面、301〜1000名までの企業は、44.3%から41.0%と微減、101〜300名の企業に至っては、31.4%から28.6%に下がっています。

 ここから読み取れるのは、大手企業は専任体制や専任者を持っており、自力でITスキル標準の導入・活用を推進することができる、ということでしょう。ITスキル標準を参照して自社用に再構築しているのも大きな特徴です。また多くの企業が、オリジナルを参照するのは導入当初だけで、活用においてはITスキル標準のバージョンアップにはあまり興味を示しません。

 先ほども述べたように、これらの企業は自力で導入・活用ができるため、普及のための施策をあまり必要としません。それに対し、中小企業への普及が進んでいない、もっと言えば後退している傾向にあるのは、普及施策が十分で無いからだと言えるのではないでしょうか。

 大手だけの普及率を見て、ITスキル標準は普及したので、普及のための施策を打つ必要性は薄れたと考えるのは時期尚早です。このまま放置すれば、大手と中小の格差が広がるばかりです。
 IPAの積極的な普及策の展開を期待したいところです。
UISSの普及率
クリックすると拡大  UISSの場合は、昨年度1001名以上の企業での活用が3.2%から、今年度10.9%になってかなりの上昇ですが、いかんせん値自体が小さすぎて大きなインパクトがあるとは言えません。今年度の活用検討中の企業が減少していることから、昨年度検討中だった企業が活用し出したとも見られ、普及が加速しているとは言いがたい結果となりました。

 ここでも、前提として頭においておかなければならないことがあります。
 UISSは、ITスキル標準よりさらに参照モデルの観点が強いと言えます。自社用に作りこめるコンテンツと手順を用意していることから、ITスキル標準のような提供されているままでのスキル診断を望む企業は、ほとんどありません。それだけ、関心のある企業は考えをよく理解しているということになるでしょう。
 また、実際に活用していても、UISSとして参照するのは導入当初しばらくのあいだだけなので、UISSを導入しているかと問われると、ほぼ自社向けに姿を変えていることから、YESとは答えにくいという傾向があります。
 したがって、実際の普及はアンケート結果よりもう少し広がっていると見るのが妥当でしょう。

 しかし、それでも普及率という点では、まだまだ低いと言わざるを得ません。ITスキル標準が地方でもキーワードとしては浸透しているのに対して、UISSの地方での知名度は、残念ですがほぼゼロに近いというのが現状です。

 昨年度まで、UISSの普及に関してはJUASに任せきりで、IPA自体の施策としては、特にこれといったものが無かったように思います。
 IPAの要約でも「UISSの普及率も伸び悩み。UISS活用に対するアプローチも再検討する必要がある。」となっているので、今年度は自ら積極的で具体性のある施策を打ち出していくことが、計画されていると考えられます。
IT業界を、もう「3K」とは呼ばせない!?
クリックすると拡大  また、P38以降にも興味深い内容が記述されています。

<P38からの抜粋>
「IT人材の仕事や職場の環境に関する満足度調査」から、職場の雰囲気に対する満足度が高く、休暇の取りやすさやプライベートとの両立に対しても満足している様子で、世間で話題に上がる3Kのイメージとは異なる結果となった。状況は変化してきている。
しかしながら、現下の景気低迷による業務量の減少が、職場環境に大きく影響を与えていることは否めない。景気の回復を待つのではなく、産業自ら変化してゆくことで、3Kイメージを払拭することが重要である。

図はP39ですが、最下部に注釈として以下の内容が記載されています。

 (注)「給与」についての満足度は今回調査においても高くないが、「IT人材白書2009」の分析結果から他業界と比較してIT業界の水準が低いとの認識は伺えず、また2008年度後半から調査時まで続いている景気低迷の影響も考えられることから、IT業界の水準や満足度が特別低いとの結論には至っていない。

 WebによるIT人材個人1000名のアンケートから、世間で言われる「3K」のイメージとは大きく異なる結果となっており、「IT人材個人の職場に対する満足感は高い」としています。その根拠として、「満足している」「どちらかと言えば満足している」の合計が、休暇の取りやすさ63.2%、職場の雰囲気62.4%、プライベートとの両立60.3%という高いポイントが付いていることを挙げています。

 また、同じくIT人材個人への他のアンケートでも、「自分の将来についての不安」が最も色濃く表れているようですが、IPAは次のようにまとめています。

 「現在のような不透明な時代であるからこそ、IT企業は、自社の方向性や将来ビジョンを明確に伝え、IT人材が、産業や企業の将来に魅力を感じ、誇りを持って生き生きと働ける環境を創り出すことが重要である」

 企業側の心構えとしては、そのとおりかもしれませんが、ITエンジニアサイドは、どう考えればいいのか、ここからは見えてきません。「営利を追求する企業がそれなりのものを用意してくれれば、ITエンジニアが幸せになる」とは考えにくいと思います。
今後の展開と必要施策
 今回の結果から、筆者なりに今後の展開と打つべき施策について考えてみました。

<ITスキル標準>
・中小企業や地域企業への普及の施策の強化が必要
 大手企業への普及率の高さは、IPAによる推進も大きいとは思いますが、基本的に大手企業は、企業自身の努力によって導入・活用が行われている、と考えていいと思います。
 「これで普及は完了し、そのための施策を打たなくていい」という訳が無く、ほとんど本格的に活用ができていない中小や地域企業に向けての普及施策を打つことが重要です。
・IT人材個人にもっとフォーカスを
 ITスキル標準自体は、個人を主体とした定義や記述で統一されていますが、普及策や話しが出る内容は企業導入がほとんどです。IT人材個人に対する具体的な施策はほとんど無いと言っても過言ではありません。
 企業導入の結果、ITスキル標準をあまりよく思っていない個人が増えていると感じるのは筆者だけでしょうか。
 ドキュメントを作成して取りに来てもらうようなアプローチだけでなく、積極的に個人や学生に対する訴えかけのためのイベント、はたらきかけのための具体的施策が必要です。

<UISS>
・IPA自身の積極的普及策展開に期待
 今年度は、今までなかったUISS普及策が、具体化されてIPAから出てくるはずです。大いに期待しましょう。

 今回公開された資料には、大変重要なメッセージがこめられています。5月に発行される本編では、さらに具体的になっているでしょう。

 IPAから公開されているドキュメントなので、ITスキル標準やUISSの普及率が主役になっていますが、それらを活用する側からすると、それ自体は大きな問題ではなく、自社に必要な人材をどのように育てていくか、個人は自分の進む道を明らかにし、モチベーション高く仕事を進めるにはどうするかが重要です。

 クラウド・コンピューティングの大きな波がすぐそこまでやってきています。ITサービスを提供する側、それを受ける側の将来像を具体化し、あるべき姿を明確にした上で、それぞれにあったソリューションを立案・実践・改善していく具体的手段を遂行するという考えが必要です。
 個人はその中で、いかにゴールを設定し自分のキャリアを見える化していくかです。
登録:2010-04-26 16:42:59
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