スキルスタンダード研究所は、各業界へのスキル標準の活用・推進、プロフェッショナル人材育成に向けたコンサルティングサービスを提供します。
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コラム
第217話:正しく知っておきたいスキル標準の現況と今後について
 今年6月に内閣官房から「世界最先端IT国家創造宣言」が発表され、その中でスキル標準の重要性が謳われています。阿部首相が本部長を務める体制の中、筆者も委員として参画することになりました。一方で、昨年末から仕分けの結果による民間移行の話も具体化してきました。
 今回はCCSFの活用を中断して、改めてスキル標準の現況とこれからの展開について語ってみたいと思います。
ITSSの現実
 3つのスキル標準の基本となっているITSSを中心に、改めて状況を明らかにしてみます。

・具体的な明示はしていないものの、実質的に企業が活用対象となっている。言い方を変えると個人向けの活用について置き去り状態であるといえる

・ITSSキャリアフレームワークに合わせる企業が続出し、どの職種のどのレベルに技術者が何名いるかの測定を中心としてしまう企業が多かった。結果として継続活用が難しくなった
→ 理由として考えられるのは以下の通り。
− 人材育成担当の経験・能力不足により検討が足りなかった
− 定義内容が抽象的なので、レベルの判定が不可能。後付けでレベル1〜3は情報処理技術者試験が位置づけられたが、上位レベルについては未対応
− レベル3の定義が何でも独力で実施できる人材なので、15年のベテランでもレベル3相当となる。平均すると一つのレベルに5年程度とどまることになり、技術者のモチベーションに問題が出る
− 技術者の仕事の範囲と職種が合わないために目標設定にも使いづらく、実質的に何のためにやっているか分からなくなる。したがって同じことを続ける限り、次の目標ステップがなく意味がなくなると同時に説明もつかなくなる

・大手ITベンダは自社向けにアレンジして使っている

・大手ITベンダが中小企業への人材調達に使ってるケースがある。下請け構造が依然として強固だといえる

・筆者が実際にいくつもの企業活用を支援する中で上記の状態が明確になり、2004年ファイザー社への対応において、ファンクションとスキルで企業のあるべき姿を描く方法を策定。後にファイザー社CIOが、経産省・局長ミーティングでこの内容を発表するに至る。これが現CCSFの原点である。後にUISS策定時に、この考え方が全面的に採用される。
この内容は2004年11月IPA発刊の「ITSS・経営者へのメッセージ」、2009年3月IPA発刊の「ITSS活用の手引き」で詳細に説明されている

・上記手法で、企業の経営戦略や事業計画を反映したタスク・スキル・人材像は実現可能となったが、技術者個人への活用法提示が現時点においてもできていない

スキル標準のあり方について
 スキル標準の活用法に基づいて定義すると以下のようになります。

(1)企業での活用
 企業導入の際に重要なのは「自社の魂」を入れ込むことであり、これができないと技術者に説明ができない。説明のできないものを継続して活用できるわけもない。
 企業のビジネス目標達成のためにどのような人材(役割、持つべきスキル)が必要かを明示することが必須である。それがTo BeとなりAs Isとのギャップから育成計画や採用計画、つまりリソース戦略立案が可能となる。

 まとめると、IT人材を擁する企業を主体に考えると、
「ビジネス目標達成に貢献する人材(タスクで表現した役割と遂行能力)の明確化のために、スキル標準を活用する」 
 のである。

(2)個人、IT業界の標準として、またはIT業界以外に対しての活用
 UISSは、もともと組み立てていくポリシーで設計されているし、ETSSには定義体はなく枠組みだけなので、業界標準として使えるようにできるのは、ITSSだけだと考える。
 また、前提として、キャリアパスを描くには人材像や役割が必要でタスクでは表現できないことから、キャリアフレームワークは有用である。

 ITSSをIT業界の標準として考えた場合、先述のようにレベル1〜3は情報処理技術者試験でレベル判定できるが、レベル4以上は方法がない。定義体自体も認定に使えるほど具体化されておらず、外部認定も存在しない状態では、実質的に業界標準として使うのは難しい。いくら新しい人材像を追加しても、このような今までの状態を続けていてはだめで、使えるようにするには第3者認定が必須である。

 また、企業を離れたIT業界での個人のキャリアを考える場合もITSSは有用であるが、SIモデルのキャリアフレームワークしか存在しないため、現状では不十分である。さらに環境の変化に合わせた次世代人材などの追加が必須である。ただし、以下の項目が要注意点である。

・誰に対してか
 IT業界内であるなら、例えばクラウドやビッグデータ系の人材を、単純にSIモデルのキャリアフレームワークに追加するのは違和感がある。キャリアパスが組める単位での提示の仕方も必要ではないか。
 IT業界の外に対しての場合、たとえば学生や他業界に対してどのような職種があるかを説明するには、全てが横並びの方が分かりやすいと考えられるが、今まで11職種を10年間提示してきて浸透できたかといえば、NOというほかない。つまり、ここでも同じやり方で続けても期待できないことが容易に推測できる。

 個人に対しての浸透はできていないばかりか、企業が説明不能な活用をしている場合が多く、技術者はITSSを全く好きではないという状態が多く見受けられる。

 他にはイベントにしても、すべて企業向けの内容であり、個人を訴求するようなものは見当たらない。IT業界にはこういう優れた人材、目標となる人材がいるということを明らかにするような企業の枠を取っ払った取り組みが求められる。具体的には個人認定や表彰、個人技術者向けイベントなどで個人に対する浸透度を上げていくことが、今すぐ実施可能である。
登録:2013-10-29 17:53:13
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